映画の主人公をつくるとき、ハリウッド映画なら有名な俳優をあてはめて作る方法があります。ハリソン・フォードは、「どのような権威にも負けずに真実を追求する主人公」を演じることが多いです。
ハリソン・フォードを主役とした映画を作りたいと映画会社の幹部が考えたとします。ハリソン・フォードは近年演じている役柄のイメージが定着していますので、そのイメージを踏襲したような主人公を考えるでしょう。
日本でも脚本家に依頼があるときに「俳優の〇〇さんを主役にしたドラマを作ってほしい」と言われることがよくあります。テレビ朝日の「相棒」も「水谷さん主演の新シリーズ」というコンセプトのもと企画が立ち上がりました。
その一方では、最初にあるストーリーのアイデアがあって、脚本をつくる場合があります。むしろ、こちらのほうが多いかもしれません。
アイデアが先か、役者が先か、主人公の創造の仕方はいろいろありますが、どのような手法であれば、物語の構造と同じように主人公もある種のパターンがあるようです。
そのパターンが役者のイメージとなり、役者の価値を形成することもあるのです。ハリウッドスターが非常に豪華な生活をしている風を装っているのは、もちろんギャラが良く豪華な生活を維持できるからでもあるのですが、それ以上に、役者としてのイメージを尊重しているからに他ならないでしょう。
主人公の作り方を考えることは、物語を成功に導くためのきっかけになるのです。ブレイク・スナイダーはどのように主人公を作り上げるのでしょうか?
ブレイク・スナイダーの主人公の作り方とは?
ブレイク・スナイダーの場合、ストーリーを考えるときに、主人公が最初に浮かぶことはほとんどないそうです。
アイデアがあり、観客をひきつける「つかみ」が生まれて、ストーリーにぴったりの主人公を考えるみたいですね。
では、主人公を考えてみましょう。どうせ考えるなら、ストーリーのテーマを伝える主人公を考え出しましょう。
あなたの語りたいストーリーの主人公は、どんな主人公ですか?
こう質問されて、明確に答えられるようになるためには、何が必要でしょうか?
主人公を具体的にするために、主人公を描写する的確な形容詞をつけてみましょう。
主人公だけではなく、悪役(敵対者)にも、悪役を描写する形容詞をつけてみましょう。
そして、主人公のドラマ上での目的は、人間だったら誰でも共感する原始的な目的を考えてみましょう。(83P)
ブレイク・スナイダーによると、観客が観たがる典型的な役柄もあるようです。
「若くて明るいナイスガイ」タイプ
「かわいい隣の女の子」タイプ
「わんぱく小僧」もしくは「賢いやんちゃ坊主」タイプ
「セクシーな女神」タイプ
「セクシーな男」タイプ
(96P・97P)
彼はいろいろ例をあげているのですが、参考にしてみてもいいかもしれません。いずれにしろ、主人公作りは基本に忠実でなければならないのです。基本というのは以下のような主人公です。
共感できる主人公であること
学ぶことのある主人公であること
応援したくなる主人公であること
最後に勝つ価値のある主人公であること
原始的でシンプルな動機があり、その動機に納得のいく主人公であること
(102P)
このシンプルなルールに従えば、間違いはないでしょう。
映画ビジネスは、多くの人に観てもらう必要があります。つまりは、できるだけ多くの人に共感してもらえるような主人公を作り上げる必要があるのです。
芸術系の映画で、まったく理解不能な主人公がいますが、これでは観客は主人公に共感できずに映画を最後まで観ることがしんどくなってしまいます。
このように理解不能な主人公では、監督の顔ばかりを想像してしまうことにもなりかねません。「ほら観てみろ。これが俺の映画だぜ」と言われているような気がするのです。
映画学校で作られる映画にはよくこんな意味不明な主人公がいます。それは物語を語る技術がないということだけではなく、映画学校のように利益を度外視して作りたい映画を作ることを教育の一環としているからです。
しかし、商業映画ではこうはいきません。誰もそんな主人公など観たくないのです。王道の主人公像こそを、これから脚本家を目指すかたには追求してほしいです。
王道の主人公とは、さきほど紹介させていただいたブレイク・スナイダーが示した5つの要素を持つ主人公であるに違いないです。
【引用は以下の参考文献から行いました】
「SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術」(2010年)フィルムアート社 ブレイク・スナイダー著/菊池淳子訳
シド・フィールドが主人公についてどのように考えていたのかは、こちらの記事を参考にしてください。