ハリウッド映画は長いものでは、3時間以上の超長編があります。長いものは観客が最後まで飽きずに観つづけるための工夫をこらしています。
長い映画だけではなく、90分程度のハリウッド映画にしては短い映画に分類されるものまで、脚本家の最低限の使命は最後まで飽きさせないようにすることです。
とくに映画の真ん中部分はストーリーがダレやすく、単調になったり、緊迫感のないものが出来ます。
それを防ぐためには、どのような方策が必要でしょうか?
ハリウッド脚本術の大御所であるシド・フィールドのテキストにそって、学んでみたいと思います。
ミッドポイントとは?
第2幕は作品全体の約半分を占めます。長さが長いぶん、構成するのも難しくなります。
シド・フィールドは師匠であるサム・ペキンパーのアドバイスをきっかけにして、ミッドポイントという概念を考え付きます。
サム・ペキンパーは言います。
「構成とは、ストーリーを中心の周りにぶら下げていくようなものだ」と。「アクションを積み重ね、ストーリーの中心に位置する出来事を作り、あとはその出来事の結果となるアクションをいつなげていく」
シド・フィールドは、この言葉をきっかけにして、第2幕の真ん中で前半と後半をつなぐ重要な事件が起こることに気づきました。それが、まさしく「ミッドポイント」なのです。
「ミッドポイントは、脚本の六〇ページあたりで起こる事件、出来事、エピソードであり、第二幕を前半と後半に分けながらも、両者で起きるアクションの橋渡しをするプロットポイントなのである」(193P)
また、シド・フィールドはこうも言います。
ミッドポイントがわかることで、すべての事が複雑に入り組んで結びつけられた。ストーリーの展開する方向が明確になり、それに沿って行動の流れができる。さらに第二幕前半・後半のサブコンテクスト(隠れた背景)がはっきりしてきて、それをもとにシーンを並べることができるのだ
ミッドポイントはストーリーを「組み立て」、どこへ向かうのかを明らかにするための重要なポイントであり、ストーリーを第二幕後半のプロットポイントへ進める役割を果たすのである(204P)
ミッドポイントとは、前半と後半をつなぐ糸のようなものですが、方向性を示すものでもあるようです。
ミッドポイントで、一度前半部分のまとめになるようなシーンを作っておくと、観客にとって、ストーリーが理解しやすいかもしれません。
そのまとめになるようなシーンは、今までどうであったのか、これからどこに進もうとしているのか、できるだけストーリーを理解しやすい形で観客に示すことができれば、感情移入しやすいでしょう。
プロットポイントとは?
シド・フィールドは、「プロットポイントⅠ」、「プロットポイントⅡ」、「ミッドポイント」というストーリーの中でも重要になるポイントを考えるように指導してきました。
「プロットポイントⅠ」や「プロットポイントⅡ」に関しては以下の記事を参考にしてください。
さらにシド・フィールドは、これらのポイント以外に、「ピンチⅠ」、「ピンチⅡ」と2つのプロットポイントを付け加えます。
「ピンチⅠ」、「ピンチⅡ」のプロットポイントとしての役割は、「ストーリーが脱線しないように軌道に乗せ、前進させるため」(210P)
そして、
「ピンチⅠ」「ピンチⅡ」は「ストーリーを前進させる限り、アクションでも会話でもかまわない」(210P)
そうです。
「ピンチⅠ」は、第2幕の前半部分のちょうど真ん中に位置し、「ピンチⅡ」は第2幕の後半部分のちょうど真ん中に位置します。シド・フィールドの話を総合すると、脚本の構成は以下になります。
■第1幕 状況設定
主人公の紹介、ドラマの前提や状況、人間関係を描く
・プロットポイントⅠ
「状況設定」から「葛藤」へ展開する(きっかけになる)ための事件やエピソードを描く
■第2幕 葛藤
主人公が目的達成のために克服しなければならない障害に直面する
・ピンチⅠ(第2幕の前半部分のちょうど真ん中)
ストーリーが脱線しないように軌道に乗せ、前進させるためのもの
・ミッドポイント(第2幕の真ん中あたり)
第2幕の前半と後半をつなぐ役割がある
・ピンチⅡ(第2幕の後半部分のちょうど真ん中)
ストーリーが脱線しないように軌道に乗せ、前進させるためのもの
・プロットポイントⅡ
「葛藤」から「解決」へ展開する(きっかけになる)ための事件やエピソードを描く
■第3幕 解決
主人公はどうなるのか、ストーリーはどうなるのかを描く
このように第2幕に「ミッドポイント」「ピンチⅠ」「ピンチⅡ」を設定することで、観客が飽きないようにしているわけです。
僕自身は、これらのプロットポイントは、ストーリーが脱線して、テーマがブレないようにするための彼なりの捉え方であると考えています。つまり、ストーリーの中のある事象に、これらのプロットポイントを意図的に読み取っているだけなのです。
正直、厳密にこれらのプロットポイントを捉える必要はないですし、作品の中でプロットポイントが見出せなくても気にする必要はまったくないと思っています。
むしろ、こういうプロットポイントが存在するというより、こういう考えで脚本を構成すると良いものができるという風に捉えると、シド・フィールドの主張がより深く理解できるのではないでしょうか?
ある映画の中のあるシーンをつかまえて、これが「ミッドポイント」「ピンチⅠ」「ピンチⅡ」だと主張したところで、当の作者がそのように考えて脚本を書いたかどうか分からないわけです。
そうではなく、ある映画の中に「ミッドポイント」「ピンチⅠ」「ピンチⅡ」があると仮定して、その役割はこうだああだと仮説を立てて、それを参考にしながら、あなた自身の脚本を書けば、参考にしないよりかは良い脚本が書けると、僕は言いたいのです。
【引用は以下の参考文献から行いました】
「素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2」(2012)フィルムアート社 シド・フィールド著/菊池淳子訳