浦沢直樹【マスターキートン】第1話「迷宮の男」あらすじと解説

この記事は、浦沢直樹の「マスターキートン」を使って脚本術を学ぶためのものです。「マスターキートン」はとにかく面白いです。1話完結型でありながら、これほどの豊かな物語性を獲得した作品はないでしょう。唯一、「人間交差点」があるのみです。

浦沢直樹「MASTERキートン」の第1話「迷宮の男」の「あらすじ」「解説」「ワンポイント」です。作品の第1話ですので、主人公がどのように紹介されているのか注意すべき回ですね。

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あらすじ

大学で考古学を講じていた平賀=キートン・太一は、保険組織であるロイズに呼び出されて依頼人であるデビット・マイルス公爵の屋敷に窺った。

マイルズ公が保険を引き受けていたレオン・パパスというジャーナリストが亡くなったというのだ。しかし、保険金の受取人は親族ではなく、オックス美術商会だった。

キートンはギリシアに行ってその謎を調べることになった。

亡くなったレオン・パパスは、9年前に軍人としてオックス美術商会の社長でオックス・ベイヤーの配下で働いていたが、ある取り返しのつかないミスをしてしまった。

村を爆破すると脅され、お金欲しさに近づいてきたオックス・ベイヤーに、レオン・パパスが発掘していた遺物を譲っていたのだった。

だが、レオン・パパスはある宝だけはどうしても譲りたくなかった。

そのため、レオン・パパスはオックス美術商会を受取人にした生命保険を自分自身にかけて、オックス・ベイヤーに自分自身を殺させたのだった・・・。

 

解説

では、冒頭から見ていこう。

物語冒頭、男が岸壁から転落死する。この男に関する物語だと分かる。

スライド映写機の映像で紹介されるモロッコに現存するジュピター神殿。映像が終わり、大学の教室内にいる男が描かれている。

この男が主人公の平賀=キートン・太一

ここでは、キートンが大学の講師をしていて講師料が安いこと、なんでもポケットに入れてしまう収集癖があること、保険の外交かなにかをやっていることが読者に示される。

MASTERキートンは1話完結型の連載漫画である。そのため、第1巻の冒頭で主人公の紹介をする必要がある。それが、2話以降の冒頭と違うところである。

ここまで物語の状況設定にあたる。

キートンはマイルズ公の屋敷にやってきて、調査を依頼される。ここから物語が動き出す。

ジャーナリストのレオン・パパスが亡くなったのだが、保険金の受取人に疑義があるからギリシアへ行って調べてほしいというのだ。

キートンはギリシアへ行って新聞記者に事故現場の写真を見せてもらう。キートンと新聞記者の関係は不明。

「ねえ、記者さん?」と言っているので、親しい間柄ではないようだ。この事故現場の写真にオックス・ベイヤー(元英国特殊空挺部隊)が写っていることに気づく。この男がどうやら事件に関係しているようだ。

キートンはイシドロス村にタクシーで移動する。

このタクシーの運転手から、亡くなったジャーナリストのレオン・パパスの女が住んでいることを聞かされる。

岸壁の上からキートンが下を見下ろすと、オックス・ベイヤーたちが女と話していた。この女がレオン・パパスの女、ソフィア。キートンはソフィアにパパスのことを話してほしいと頼む。

ソフィアの口から、レオン・パパスは故郷の復興資金のために海中に眠る古代の沈没船から遺物を引きあげていたこと、そこにマックス・ベイヤーが現れ、この日から、パパスはベイヤーに遺物を渡すようになったことを聞きだす。

ところが、パパスはある宝を見つけてから態度が変わったというのだ。

ベイヤーの言いなりになりたくないと、パパスは自分の生命保険の受取人をベイヤーに指定して、自分を殺させたのだった。

ベイヤーたちがソフィアを殺しにやってくる。キートンはソフィアを連れて逃げる。

キートンは銃やナイフを持つ相手に、工夫を凝らした戦い方(まさしくサバイバル技術の教官らしく)でベイヤーたちを倒す。

そして、ラストシーンは、パパスが命を懸けて守ろうとしたお宝が何であったのか明かされる。そして、パパスがベイヤーに渡したくなかった理由も明かされるのだ。

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物語の展開が非常にスピーディーで、読者をグイグイ引っ張っていく。

ギリシアに移動してすぐに新聞記者から現場写真を見せてもらい、その写真に敵であるベイヤーが写っている。イシドロス村に移動するタクシーの中で、キートンは運転手にパパスの女のことを聞かされる。

物語の展開に必要な情報はすぐにあっけなく知らされるのだ。キートンが情報を知るために街じゅうを駆け回るシーンは一切ない。情報は勝手に、そして自然な形で知らされるのだ。

 

この物語には2つの謎がある。

なぜパパスは亡くなったのか?

パパスが守ろうとした宝は何だったのか?

 

前半はパパスの死を巡り物語が展開され、後半はパパスが守ろうとした宝を巡り展開される。

ラストシーンで、パパスがなぜ命をかけて宝を守ろうとしたのかが明かされるが、この理由をしっかり読者に伝えないと、なんで死ななきゃいけないわけ、、、という感情を抱かせてしまう。

「だからこそ、宝を守りたかったんだな」と読者を納得させてから物語を終えなければならない。そうすることによって、読後感がすっきりする。

人が命を賭けてでも守りたいものは何であるのか。僕自身、そのような守りたいものがあるのか。あるとしたら、いったい何であるのか。そう思いながら本作を読んだ。

誰もがみな、そういう大切なものを抱えながら生きている。それが生きる意味と言ったら、大げさだろうか。

パパスの「これだけは絶対にあいつらに渡したくないんだ」という声が紙面から聞こえてくるようだった。

キートンは非常に観察眼の鋭い人物として描かれている。相手の服装を見ただけで、銃を隠し持っていることを見抜くのだ。

ひとつひとつの行動にキートンらしさが表れて、キートンという人物像を作り上げていくのだ。

 

ワンポイント

■物語をスピーディーに展開させること

■物語冒頭で早めに主人公の目的を示すこと

■謎を作り、謎を解明することで話を引っ張ること

■つまらないシーンは長ながと描かない(聞き込みや情報収集のシーンなど)

■主人公の言動には主人公らしさがないといけない

 

 

MASTERキートン第1話「迷宮の男」「MASTERキートン 完全版 コミック 全12巻完結セット (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)」より

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ABOUTこの記事をかいた人

沢村浩平(さわむらこうへい)

大阪府出身。ブログ「面白い物語に魅せられて」管理人

高校中退後に上京。様々なアルバイトを経て、保険調査会社に勤務する。保険の調査をしながら、テレビドラマの脚本や漫画原作の制作に携わる。

とは言っても、ある脚本家や漫画原作者の下書きばかりをしていた。要するにアシスタントである。

最初はテレビドラマの脚本を下書きをしていた。ひたすらプロットを作る日々が続く。ある日、先生に「これ、いいねえ」と言われ、はじめて脚本を書く。先生がそれに手を加えてみると、まるで別の作品になってしまったので、自分の技術のなさを痛感する。

保険調査会社に勤務しながら脚本の下書きを書いていたが、保険調査をしていた関係で、ある漫画原作者から協力を依頼される。

その企画はボツになったが、その後、その漫画原作者のもとで原作の下書きに携わる。潜入取材多数。タイトルは申し上げられないがテレビドラマ化されたものもある。

その後、脚本家の先生はご高齢のため亡くなり、アシスタントをしていた漫画原作者は廃業したため、独立することなく業界から足を洗う。

今現在は、保険調査の仕事をしながら、たまに演劇の自主公演の協力をしたり、専門学校生の自主制作映画の手伝いをしている。