ハリウッド式脚本術の本質は、過去の映画を分析したらあるパターンが抽出されて、そのパターンを下敷きにすることによって、脚本を創作しようというものです。
そのパターンというものは、ストーリーにあるものと考えがちですが、実はストーリーだけではありません。キャラクターを創作するときにもパターンを利用できるのです。
ストーリーのパターンでは、いろいろなパターンを組み合わせていくと、べつの物語が出来あがります。キャラクターだって同じですね。
結局、物語を作るということは、パターンの組み合わせでしかないのです。そして、キャラクターを作るときにもパターンを組み合わせればいいのです。
「屈強な肉体」「無口」「無表情」、、、この3つのパターンを組み合わせれば、どのようなキャラクターが出来るでしょうか? この3つのパターンに人物の目的を組み合わせます。
アフガニスタンへ上官を助けに行けば「ランボー」になり、さらわれた娘を助けに行けば「コマンドー」になりませんか?
物語に出てくるキャラクターは今も昔も変わらず、同じようなタイプのキャラクターが存在します。キャラクターのタイプが分っているのですから、これに基づいてキャラクターを作ればいいわけです。
この記事では、そのパターンを紹介します。お気に入りにパターンがあれば、それを基にして味付けして人物像を膨らませてみてください。
ジョーゼフ・キャンベルの原型とは?
ボグラーは言っています。
「<原型>とは、くり返し現れる人間の行動パターンのことであり、映画や物語では、標準的なタイプのキャラクターがそのパターンを表現する(124P)」
以下はジョーゼフ・キャンベルから取り出した<原型>の一覧です。
■主人公(ヒーロー)
物語の中心となる人物。
■影(シャドウ)
悪者や敵。ときには内面の敵であったりする。
■賢者
<主人公>を導く人。もしくは導く原理。偉大な指導者もしくは教師となる人物。
■使者
<冒険への誘い>を伝えるもの。<主人公>に行動を促す人、もしくは出来事。
■戸口の番人
<主人公>の旅路の重要なターニングポイントとなる地点で邪魔をする力。嫉妬深い敵、仕事として門番を務める人物。もしくは、<主人公>自身の恐れや疑いなどがこれに当たる。
■変身するもの(シェイプシフター)
変身する生き物。<変身する者>は、不可解に変身する人間自身のパーソナリティや気分を、象徴的に表現している場合もある。
■トリックスター
道化役のいたずら仕掛け人。人が持ついたずら好きな潜在意識、状況を変えたいという衝動を象徴する存在。<トリックスター>は社会の正常な状態をひっくり返し、その欠点を暴き出す。
■仲間
<主人公>の変化を助けるキャラクター。腹心、相棒、恋人、など、人生が変遷していく過程で<主人公>に助言を与える。
プロップの原型とは?
ロシアの研究者のウラジーミル・プロップは、ロシアのおとぎ話からサンプル抽出をおこない、ジョーゼフ・キャンベルとは別の<原型>を示しました。
■敵対者
主人公と闘う人物。
■贈与者
主人公の準備を整えさせたり、主人公に魔法の物体を与える人物。(<賢者>に相当)
■(魔法による)支援者
主人公の冒険を助ける人物や物体。魔法の動物、空飛ぶじゅうたん、目に見えない力などが、人間の支援者と同じように主人公を助け、人間と同じルールに従う。(<仲間>に相当)
■姫君と父王
相手役、もしくは権力者として、主人公に困難な課題を与え、偽物を見つけ出して罰し、本物の英雄に報酬を与える役割。
姫君も王も、物語のさまざまな場面で主人公に対する立場を変化させる。
主人公の助けを求めたり、主人公に承認を与えたりする一方で、主人公に疑いを持ち、その人生をさらに困難なものにしようとすることもある。
■派遣者
足りないものを明るみに出し、主人公を送り出す人物。
■主人公
故郷を去り、贈与者に反応し、冒険を引き受け、敵対者と闘い、足りないものを克服し、偽の主張者と競い合い、姫君と結婚するか王座を手にする。
■偽の主人公/偽の主張者/第二の敵対者
主人公の行動は自分の業績だと言い、姫君との結婚または王座獲得の権利は自分のものだと主張する人物。
困難な課題、または3つの課題で主人公と競い合う。
通常は偽の主張をしたことが明るみに出て、王か姫の命令で、死罪か追放処分、または相応の屈辱を与えられる。
ジョーゼフ・キャンベルにしろ、プロップにしろ、膨大な数の物語から抽出した結果が<原型>であると主張しています。
別の言い方をすると、もっと探せば、他にも<原型>が見つかる可能性があります。自分なりの<原型>を見つけることによって、新しい物語を作ることができるのかもしれません。
いずれにしろ、ご紹介した<原型>がすべてではありません。参考程度に活用することがいちばん無難な方法だと考えています。
キャラクター設計の方程式とは?
「物語の法則」の共著者であるマッケナは、キャラクターを生み出すために、ある方程式を提案しています。この方程式通りにキャラクターを作ればいいわけですね。
キャクラクター = 求めるもの + 動き + 障害 + 選択
■求めるもの
誰かが何かを欲しがるまでは、ドラマには何も存在しない。
動機となる欲求がないと、登場人物は、静止状態にとどまり、何もすることがなく、行くところもない。
■動き
求めるものだけではキャラクターは成り立たない。努力、つまり何らかの動きが始まらなければならない。
■障害
「求めるもの」や「動き」の他にもまだ必要なものがある。ドラマには対立が必要だ。
■選択
主人公が何かを求め、それを手に入れる方向へと動き出せば、ボールが転がりだす。
障害がボールを止めてしまったら、主人公はどうするか決めなければならない。
主人公は選択をしなければならず、この選択がキャラクターの特質を生み出す。
方程式という大げさなものではなかったのですが、非常に大切な要素をシンプルな形で示しています。この4つの要素を明確にすることによって、キャラクターがくっきりと浮き上がってくるのです。主人公だけではなく、すべての登場人物も4つの要素を明確にしましょう。
以上、3つの原型をご紹介しました。映画の登場人物からさまざまなパターンを抽出してみましょう。典型的な人物のパターンは、昔の名作に由来するものです。
「ランボー」も「ロッキー」も「ダーティハリー」もあるパターンを僕らに提供してくれます。典型的なパターンが抽出できる映画というのは、「主人公の名前=タイトル名」になっている映画に多いです。
いろいろ探してみてください。
【参考文献】
「物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術」(2013年)アスキー・メディアワークス社 クリストファー・ボグラー/デイビッド・マッケナ著/府川由美恵訳