ブレイク・スナイダーは、「シド・フィールドが映画の構成分析の生みの親」だと考えています。
ハリウッド映画の脚本は、以前は劇作家や小説家が小遣い稼ぎに書いていました。ハードボイルド小説の確立者のひとりでもある小説家のチャンドラーもそのひとりでした。
映画に演劇的な要素や小説的な要素がこれらの脚本家によって持ち込まれました。
ところが、近年のハリウッド式脚本は「スターウォーズ」に影響されていると言われています。なぜなら、ルーカスは「スターウォーズ」の脚本をジョーゼフ・キャンベルの神話論を下敷きにしているからです。
キャンベルの神話論は、さまざまな地域の神話に出てくるヒーローの物語構造を分かりやすく説明したものですが、その物語構造に則って、ルーカスは「スターウォーズ」の脚本を書いたのでした。
その一方で、シド・フィールドはたくさんの脚本を読むうちに優れた映画脚本には共通した要素があることに気づき、体系化しました。
映画の脚本を書くときに、この2つの構造の影響を受けずに書くことは不可能になりつつあります。なぜなら、万人受けする物語の構造を示しているからです。
映画はビジネスの側面が強く、映画作品は大衆に気に入られる必要があります。興業的に成功させることが、次への作品につながるからです。そして、興業的に成功させる秘訣が、まさにこの2つの物語構造を応用することなのです。
ブレイク・スナイダーは、シド・フィールドから強い影響を受けています。そして、彼の体系化した物語構造を応用して、より使い勝手の良いものへと改良したのでした。
ブレイク・スナイダーが語るビートシートとは?
ブレイク・スナイダーの説明するシナリオ構成は、シド・フィールドの考えた構成をアレンジした内容になっています。アレンジというより、より実用的に改変したものだと言えるでしょう。
(01)オープニング・イメージ
(02)テーマの提示
(03)セットアップ
(04)きっかけ
(05)悩みのとき
(06)第1ターニング・ポイント
(07)サブプロット
(08)お楽しみ
(09)ミッド・ポイント
(10)迫り来る悪い奴ら
(11)すべてを失って
(12)心の闇
(12)第2ターニング・ポイント
(14)フィナーレ
(15)ファイナル・イメージ
これだとよくわかるようで、よくわからないような気がします。なんとなく、イメージは沸くのですが。
では、ブレイク・スナイダー流のシナリオ構成法を具体的に見ていきたいと思います。
(01)オープニング・イメージ
映画全体のスタイル、雰囲気を設定し、主人公を紹介して、<使用前>の主人公の映像を見せる。
(02)テーマの提示
登場人物の誰か(たいてい主人公以外の人物)が問題を提起したり、テーマに関連したことを口にして、脚本家の論点や主張がいろいろな形で提示される。
(03)セットアップ
主人公、ストーリーのテーマや目的が設定される。登場人物の紹介。登場人物の特徴や、のちに起こる問題の原因となる行動も提示され、主人公がどのように変化すべきなのかが示される。主人公に欠けている部分や直すべき部分を提示する。
(04)きっかけ
何かが起こる最初の瞬間。生きていれば、誰にでも人生を変えるような瞬間(きっかけ)が必ずあり、それこそまさに人生を感じさせるものである。ただし、そのきっかけは、いいこともあれば悪いこともある。
(05)悩みのとき
よく考えるための時間。「そんなことできるわけない!」って主人公が言う最後のチャンス。自分自身の目標は実現不可能ではないかと疑問に感じ、いろいろ悩む。何かしらの疑問を抱く。そして、答えを出す。だからこそ自信をもって前進できる。
(06)第1ターニング・ポイント
第1幕と第2幕の境目は、古い世界(=テーゼ)を出て正反対の世界(=アンチテーゼ)に進む瞬間である。2つの世界はあまりにも違うため、自ら入ろうという明確な意志が必要になる。
(07)サブプロット
ちょっとした場面転換であり、新たな視点から捉えたメインプロットなのである。作品のテーマを伝えたり、メインプロットのターニング・ポイント後の衝撃を和らげながら、さらにストーリーを前進させる。
(08)お楽しみ
観客に対するお約束を果たす場である。ポスターや予告編で使った一番おいしい部分。
(09)ミッド・ポイント
主人公はこのポイントで絶好調(実は見せかけ)になるか、絶不調(実は見せかけ)になるかする。ミッド・ポイントからは、いきなり危険度がアップする。主人公はこれから本物の教訓を学ばなければならない。
(10)迫り来る悪い奴ら
悪い奴らは、体勢を立て直し、総攻撃を仕掛けようと決意する。一方、主人公のほうも見せかけの勝利のあと、仲間と意見の食い違いが起きたり、疑いや嫉妬で結束力が弱まり始める。主人公には助けを求める場所はない。自分の力で乗り切るしかない。
(11)すべてを失って
死の気配。古い世界や登場人物、古い考えが死んでいく。ここを通過するから、テーゼ(過去の世界)とアンチテーゼ(過去と正反対の世界)が融合し、ジンテーゼ(新しい世界や人生)への道が開かれる。
(12)心の闇
悟りのシーン。主人公は深く考え、心の奥底を探る。
(13)第2タイニング・ポイント
メインプロットとサブプロットが出会う地点で、それによって主人公はついに解決策を見出す。あとは実行するのみ。
(14)フィナーレ
第3幕で、すべてのまとめである。教訓を学び、主人公の直すべき点が直り、メインプロットもサブプロットも主人公が勝利して終わる。古い世界は新しい世界へと変わり、新たな秩序が生まれる。
(15)ファイナル・イメージ
オープニング・イメージと対になる部分であり、本物の変化が起きたことを見せる場である。
ブレイク・スナイダーは、ビートごとにうまく説明しており、これに当てはめるように構成していけば、自ずとうまく構成できるでしょう。そういう意味で、シド・フィールドの構成法より、ブレイク・スナイダーの構成法がより実用的なのです。
物語構造を下敷きにすることがシナリオ作成の最善の方法である
あなたはシナリオを書きたいと思っているのなら、まずはあなたが感動した映画の構造を分析することです。まずは、主人公の行動を簡潔にまとめましょう。それから、主人公以外の行動を分析して、主人公を含めた映画の登場人物の行動を1枚の紙にまとめてみるのです。
それから、登場人物たちの行動を抽象化します。「主人公がAと会う」「主人公がAに騙される」、、、この程度に抽象化すると良いです。
あなたが考えた登場人物に抽象化した行動をさせてみます。あなたが考えるべきことは、「Aと会う」なら、どのように会うのかを考えるのです。「Aに騙される」なら、どのように騙されるかを考えるのです。
「ダーティーハリー」を下敷きにしたのであれば、主人公を探偵に変更するとか、保険調査員に変更すると、また違った印象の物語になります。主人公を肉体派ではなく、頭脳派にするとか、いろいろ考えると面白いですね。
こんな作り方に個性なんてないじゃないかと批判されるかもしれません。しかし、僕は構造やパターンに還元できないものこそ、個性だと考えています。
あなたはいろいろな物語を下敷きにして、べつの脚本を書くでしょうが、ある映画を下敷きにして脚本を作るときに、下敷きにできない部分が必ず存在します。それこそが、その映画の個性になると思うのです。
ですから、真似ることを恐れてはいけませんし、真似られることも恐れてはいけません。たとえ、多くの脚本家にあなたの作品が真似られたとしても、決して真似のできない部分があるはずです。それがあなたの個性なのです。
(もっとも真似られるような作品が書けるってことは凄いことなんですけれど。。。)
【引用は以下の参考文献から行いました】
「SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術」(2010年)フィルムアート社 ブレイク・スナイダー著/菊池淳子訳